日本航空(JAL)が10,000ページを超える膨大な顧客サービス情報を統合し、分散していた知識システムをDrupalベースの統合プラットフォーム「POLARIS」で刷新しました。オペレータの経験と勘に頼らない検索性を実現し、グローバル規模での即座な情報共有を可能にしました。
複雑化した顧客対応業務の課題
分散化された情報システムの限界
JALが直面していた最大の課題は、顧客サービスに必要な情報が複数のシステムに分散していたことです。複雑なディレクトリ構造により、オペレータは経験と勘に頼って情報を探す必要がありました。この状況では、顧客への最適な回答を見つけるまでに時間がかかり、お客様をお待たせする原因となっていました。
グローバル運用における運用効率の問題
- 24時間365日体制:航空会社として途切れることのない顧客サポートが必要
- 人的リソースの制約:ルーティン業務に人員が割かれ、付加価値の高い業務に集中できない
- メンテナンスの困難性:システム更新にはオフィスへの出社が必要
- サービス多様化への対応:拡大するサービス範囲により、オペレータに求められるスキルが複雑化
既存システムの技術的制約
従来システムはEnd of Life(EOL)を迎えており、新しいプラットフォームへの移行が急務でした。さらに、COVID-19によるパンデミックの影響により、リモートワーク対応の必要性が高まっていました。
DrupalベースのPOLARISシステム導入
統合知識管理システムの構築
JALは新しい知識管理システムに「POLARIS」という名称を付けました。POLARISは北極星を意味し、迷った旅行者に正しい道筋を示すという意味が込められています。このシステムは、分散していた複数のシステムを統合し、高い検索性を実現する設計となっています。
技術基盤とアーキテクチャ選定
プラットフォーム選定において、JALは3つの核となる要件を設定しました:
- 24時間365日運用:航空業界特有の継続運用要件
- グローバルレベルサービス:国内外の拠点での一律利用
- 拡張可能アーキテクチャ:将来的な顧客セルフサービス対応
これらの要件を満たすため、Drupal 8.x/9.xをベースとし、Acquia Cloudサービスを採用しました。
アジャイル開発によるサイト主導型アプローチ
開発手法として、サイト主導型のアジャイル開発を採用しました。この手法により、「オペレータと管理者が使いやすいシステム」という目標がCOVID-19による遅延にも関わらず達成され、予定通りにリリースされました。
運用効率化とパンデミック対応の成果
オペレータ業務の劇的改善
POLARISシステムの導入により、以下の成果が得られました:
- 応答時間の短縮:オペレータの経験や勘に依存しない迅速な情報検索
- ストレス軽減:複雑な検索によるお客様への待ち時間発生を解消
- 生産性向上:人的リソースを付加価値の高い業務にシフト
- グローバル情報共有:国内外の窓口スタッフが瞬時に共有知識にアクセス可能
パンデミック時代の運用継続性
COVID-19のパンデミック期間中、POLARISシステムは特に重要な役割を果たしました:
- リモート更新機能:自宅からのシステム更新が可能
- 即座の情報共有:刻々と変化するパンデミック状況への迅速対応
- 継続運用保証:パンデミック下でも24時間365日の運用体制を維持
将来への基盤構築
POLARISは単なる内部システムの改善に留まらず、将来的な顧客セルフサービス化への基盤も提供しています。FAQ機能など、お客様が直接アクセス可能なサービスへの展開も視野に入れた設計となっています。
技術ポイント
Drupalとクラウドサービスの選定理由
JALがDrupalとAcquia Cloudを選択した技術的理由は、グローバル規模でのサイト構築、運用、コンテンツ管理、Webマーケティングに対応できる総合的なサポート体制にありました。
Acquia Lightningディストリビューションの活用
開発期間短縮のため、Acquia Lightningディストリビューションを採用しました。これにより、Acquia環境に最適化されたモジュールとDrupal設定を活用し、開発工数を削減できました。
Paragraphsモジュールによるコンテンツ管理効率化
デザインガイドラインで定義されたコンポーネントをParagraphsモジュールで実装しました。これにより、コンテンツ編集者は必要なデザインコンポーネントを選択して効率的にページを作成できるようになりました。
データ移行と品質管理
既存システムから10,000ページを超えるコンテンツを精査・移行する大規模なデータ移行プロジェクトを実施しました。品質を維持しながら膨大な情報資産を新システムに移行することで、サービス継続性を確保しました。
学ぶべきこと
エンタープライズ規模でのDrupal活用
この事例は、Drupalが大規模エンタープライズ環境で要求される高可用性、拡張性、セキュリティ要件を満たせることを実証しています。特に24時間365日の運用要件を持つ航空業界での実績は、他の業界への適用可能性を示唆しています。
アジャイル開発とサイト主導型アプローチ
技術選定だけでなく、開発手法としてサイト主導型アプローチを採用したことで、実際の利用者(オペレータ・管理者)のニーズに応えるシステムを構築できました。このアプローチは、システム導入後の運用効率に直結する重要な要素です。
パンデミック対応とリモートワーク基盤
POLARISシステムがリモートワーク対応を可能にしたことは、予期しないパンデミック状況でも事業継続性を確保する重要性を示しています。クラウドベースのCMSによる遠隔運用能力は、現代のビジネス継続計画における必須要件となっています。
段階的デジタル変革アプローチ
JALは内部システムの効率化から始まり、将来的な顧客セルフサービス化への基盤を構築するという段階的アプローチを採用しました。このような計画的なデジタル変革は、投資対効果を最大化しながらリスクを最小化する手法として参考になります。
出典
Japan Airlines | Drupal.org 2021/11/15 (CC BY-SA 2.0)
記事執筆にあたっての注記
本記事は、Drupal.orgのケーススタディを参考に、独自の視点で再構成・執筆したものです。数値データや固有名詞については原典を参照していますが、技術的な解説などについては、執筆者の経験と知見に基づいて記述しています。
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