1884年設立の三菱重工業が2023年5月、顧客向け情報共有システムをAcquia Cloud Platformで構築し、従来の分散した情報管理の課題を解決しました。権限に応じたアクセス制御と外部データ連携により、製品情報の迅速な提供を実現しました。
課題:分散した情報管理と複雑なアクセス権限
三菱重工業のDigital Platform Innovation部門は、2022年7月の組織発足とともに、顧客および従業員の体験向上を目指す取り組みを開始しました。同社が直面していた主要な課題は以下の通りです。
情報統合の困難
- 社内外に散らばった製品・技術情報の統合管理が困難
- 効果的な情報共有メカニズムの不足
- 139年の歴史を持つ企業としての膨大な技術資産の活用不足
複雑なアクセス権限要件
- 顧客の組織や購入状況に応じたページレベルでのアクセス制御
- 購入前と購入後で異なる閲覧権限の設定
- 既存の認証システムとの連携要件
航空宇宙、船舶、エネルギー、産業機械など多岐にわたる事業分野を持つ同社にとって、これらの情報管理の課題は顧客サービスの質に直結する重要な問題でした。
ソリューション:Acquia Cloud Platformによる統合システム構築
2022年7月のプラットフォーム採用決定から2023年5月のシステム稼働まで、約10ヶ月という短期間での構築を実現しました。
核となる技術アーキテクチャ
- 基盤技術: Acquia Cloud Platform(マネージドDrupalサービス)
- 検索機能: Acquia Searchとキーワードハイライト機能
- 外部連携: BOXデータレイクとの統合による文書検索
- 認証システム: 既存の顧客・従業員認証システムとのAPI連携
実装された主要機能
- 顧客ステータスに基づくページ単位のアクセス権限管理
- WordドキュメントとPDFファイルを含む横断的検索機能
- DevOpsツールを活用したCI/CD環境の構築
- アジャイル開発手法による迅速な機能追加対応
開発パートナーのDigital Circusとの協力により、内部開発チームがインフラ運用から解放され、新機能開発に集中できる体制を構築しました。
成果:開発効率向上と迅速なサービス提供
開発プロセスの最適化
- エンジニアのインフラ作業負荷軽減
- 新機能開発への集中投入による開発速度向上
- 計画されたすべての機能の期限内実装
システム機能の実現
- 顧客組織と購入状況に応じた差別化されたコンテンツアクセス
- 社内外文書を統合した高度な検索体験
- ユーザーフィードバック収集機能による継続的改善体制
今後の展開基盤
- 多言語対応への拡張可能性
- 他部門への横展開準備完了
- スケーラブルなシステム基盤の確立
第一段階として特定部門での稼働開始を果たし、全社展開に向けた基盤を整備しました。
技術ポイント
Drupalモジュールの活用
- Acquia Connector: プラットフォーム統合管理
- Acquia Search: 高速かつ精密な検索機能
外部システム連携設計
- BOXデータレイクとの シームレスな統合
- 既存認証システムとのAPI連携による単一認証環境
- マイクロサービス的アプローチによる疎結合アーキテクチャ
権限管理アーキテクチャ
- Drupalの標準権限機能を拡張した細かい粒度の制御
- 動的なコンテンツアクセス制御による柔軟な情報提供
- セキュリティ要件を満たしながらのユーザビリティ確保
学ぶべきこと
マネージドサービス活用の効果
大企業における Drupal 導入では、インフラ運用をマネージドサービスに委ねることで、開発チームが本来の価値創造に集中できる環境を整備することの重要性が示されています。特に短期間でのシステム構築を求められる場合、このアプローチは有効です。
段階的展開戦略
全社規模のシステム刷新ではなく、特定部門での実証を経て横展開する戦略により、リスクを最小化しながら成功事例を積み重ねる手法は、大規模組織でのDrupal導入における参考となるアプローチです。
既存システムとの統合設計
新システム構築時における既存認証基盤との連携や、外部データソースとの統合設計は、企業のDX推進において不可欠な要素であり、API設計の重要性を改めて示す事例となっています。
出典
Mitsubishi Heavy Industries 2023/10/10 (CC BY-SA 2.0)
記事執筆にあたっての注記
本記事は、Drupal.orgのケーススタディを参考に、独自の視点で再構成・執筆したものです。数値データや固有名詞については原典を参照していますが、技術的な解説などについては、執筆者の経験と知見に基づいて記述しています。
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